― 夜の河川敷で起きた不可解な連鎖 ―
梅雨の夜。 湿った空気がまとわりつき、川面には街灯の光がぼんやり揺れていた。 旦那は鰻を狙って、河口より少し上流の川へ向かった。
竿は2本。 移動はバイク。 川沿いを歩きながら、いくつかのポイントを転々とする“夜釣りの定番スタイル”。
しかし、その夜はいつもと違った。
■ 第一の異変:鍵が消えた
釣り場を移動しようとしたとき、旦那は気づいた。
鍵が、ない。
夜の河川敷で鍵を落とすというのは、 ほとんど“絶望”に等しい。
濡れた草むらは光を吸い込み、 落とし物は闇に溶ける。
旦那は来た道を30分ほど、黙々と探し続けた。 そして奇跡のように、草の間に光る金属片を見つける。
助かった―― そう思ったのも束の間だった。
■ 第二の異変:竿が一本、跡形もなく消える
釣り場に戻ると、 そこにあるはずの竿が一本、消えていた。
盗難か? しかし一本だけ持ち去るだろうか。
魚に引きずられた? だがこの時間。竿を持っていくなら鯉くらいか。
夜に鯉がそんなに活発だろうか。
答えのない疑問だけが残る。
■ 第三の異変:沈んだ竿が“釣れる”
残った竿を片付けようと糸を巻き始めたとき、 旦那は違和感に気づく。
重い。
根掛かりかと思ったが、巻ける。 慎重に巻き続けると、水面に黒い影が浮かび上がった。
それは―― 消えたはずの自分の竿だった。
しかも、沈んだ竿のリールのベールに、 今巻いている竿の針が奇跡的に引っかかっている。
偶然にしては出来すぎている。 まるで“何か”が引き合わせたような。
■ 第四の異変:静かに浮上した“犯人”
沈んだ竿を回収し、 次にその竿の糸を巻き始める。
もう魚はいないだろう。 そう思った矢先、 糸の先に“重さ”が残っていることに気づく。
しかし、引かない。 暴れない。 ただ、そこにいる。
静かな重さ。
水面がゆらりと割れた。
ぬわぁ――
黒い影が姿を現した。 60センチほどの、巨大なナマズ。
その目は、まるで “自分が釣られていることに気づいていない” かのように静かだった。
竿を引きずり、沈め、 それでも暴れず、 ただ重さだけを残していた“犯人”。
梅雨の夜、旦那が川で失くしたものと、 最後に回収したもの。
そのすべての因果が、 静かに水面から上がってきた。
■ 小さな後日談:なぜナマズは竿を沈めたのか
ミステリーのような連鎖だったが、 実は“自然の条件”が重なると起きてもおかしくない出来事だった。
- ナマズは夜行性
- 梅雨時期は活性が高い
- 雨で濁った水は警戒心を下げる
- 流れの緩い場所で餌を追いやすくなる
この条件が揃うと、 ナマズは驚くほど力強く餌に食いつく。
竿を引きずり、沈めるほどのパワーを見せることも珍しくない。 つまり、あの夜の“不可解な連鎖”は、 自然と偶然が重なった結果だったのかもしれない。
■ 余韻
鍵を失い、竿を失い、 そして最後に静かに浮上したナマズ。
梅雨の夜の川は、 ときに人の想像を超える物語を用意している。
旦那の脳裏には、 あの“ぬわぁ〜”の姿が今も焼き付いている。


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