■ 屋島へ
ばつまるは、ある日ふと思った。 「……そういえば、四国には“狸の総大将”みたいな存在がいるらしい」
それが、屋島の 太三郎狸。 狸として生きるなら、一度は挨拶しておきたい。 そんな気持ちで、ばつまるは屋島へ向かった。
■ 昼の屋島:静かな気配
境内を歩くと、空気が少しずつ変わっていく。 風は静かで、木々の影が揺れ、どこか“見られている”ような気がした。
「……あ、これ絶対たぬきの気配だ」
親子の狸像の前で立ち止まると、 石の表情がほんの少しだけ柔らかく見えた。
「こんにちは。ばつまるです。今日はご挨拶に来ました」
返事はない。 けれど、笠の影がふわりと揺れた。

■ 養山塚:狸たちの眠る場所
さらに進むと、たくさんの狸像が集まる場所に出た。 静かで、どこか懐かしいような空気。
「ここ……狸の集会所みたいだな」
養山塚。 昔から屋島に生きた狸たちを祀る場所だという。
ばつまるは思わず背筋を伸ばした。 「ぼくも……いつかここに名前が刻まれたりして……いや、まだ早いな」

■ 太三郎狸の祠へ
赤い鳥居が連なる参道を進むと、 太三郎狸の祠が静かに佇んでいた。
ばつまるは深呼吸し、 外れたぬき券で作った名刺をそっと差し出した。
「ぼくは、ばつまる。狸として……いや、人として? いや狸として……えっと……とにかく挨拶に来ました」
その瞬間、鳥居の奥から声がした。
「……ふむ。外れを笑いに変えるとは、面白い狸よ」
ばつまるはビクッとした。
「えっ、あの、はい。外れたぬき券を名刺のモチーフにしてます……」
「失敗を笑える者は、よく化ける。 迷うな。おまえの道は、おまえが決めるのだ」
声はそこまで。 風が止むと、森はただ静かに戻っていた。
「……今のって本物? 幻? いや、たぬきだし、どっちでもいいか」

■ 夕焼け:境界の時間
山を下りかけた頃、空が赤く染まり始めた。 昼と夜の境界。 現実と幻の境界。
ばつまるは思った。 「太三郎狸さん、まだ何か言いたそうだな……」
その予感は、夜になってすぐに当たる。

■ 夜の屋島:光の変化
日が暮れると、屋島はまるで別世界になった。
門には金魚が泳ぎ、 道には星が流れ、 木々は青い光に包まれた。
「……これ、絶対太三郎狸の変化だよね?」
ばつまるは目を丸くした。 人間には“イベント”に見えるかもしれない。 でも、狸には“変化”に見える。



■ 巨大な月:クライマックス
そして—— 闇の中に、巨大な月が浮かび上がった。
ばつまるは息をのんだ。
「……でっか。あれ、太三郎狸の変化じゃない?」
月の光に照らされると、 ばつまるの影が少しだけ大きく見えた。
その時、もう一度だけ声がした。
「月は満ち欠ける。狸もまた、姿を変えて生きる」 「ばつまるよ。迷ったら、月を見よ。 変わり続けることを恐れるな」
ばつまるはそっと名刺を握りしめた。

■ 夜景:旅の続き
展望台から見下ろす高松の夜景は、 まるで星が地上に降りたようだった。
「……よし。次はどこに行こうかな。 太三郎狸さん、また来ますね」
風が優しく吹いた。 それはまるで、太三郎狸が笑っているようだった。

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